有機過酸化物の使用分野

有機過酸化物を特徴づけている過酸化結合は、他の結合に比べて結合エネルギーが低く、熱や光あるいは還元性物質により容易に分解し、遊離ラジカルを生成します。この遊離ラジカルは反応性が非常に高く、不飽和二重結合への付加反応やアルキル基からの水素引き抜き反応を起こすため、有機過酸化物は、種々のラジカル反応の開始剤として高分子工業の分野で広く利用されています。

R1-12 R1O・+・OR2

1.重合開始剤として
ラップフィルム、カップ麺の容器、アクリル塗料、自動車のプラスチック部品や各種電気製品のハウジング等、我々の周りには種々のプラスチックやゴム成形品があふれています。
これらの成形品の原材料である合成樹脂、合成ゴムのうち、塩化ビニル樹脂、ポリスチレン、高圧法ポリエチレン、アクリル樹脂、ABS樹脂あるいはSBR等の工業的生産のために有機過酸化物が使用されています。
有機過酸化物から生成する遊離ラジカルは、周囲に不飽和単量体(塩ビ、スチレン、エチレン、アクリル酸エステル等)が存在すると、これに付加して新たな構造のラジカルとなり、さらに別の不飽和単量体に次々と付加する連鎖反応が進行してポリマー(樹脂・ゴム)を形成します。

2.硬化剤として
ボート、ユニットバス、浄化槽、波・平板、人工大理石等の熱硬化ベース樹脂である不飽和ポリエステルやビニルエステル、DAP等の硬化剤として有機過酸化物が使用されています。
硬化反応は、有機過酸化物から生成する遊離ラジカルが熱硬化ベース樹脂中の不飽和基に付加し、さらに別の不飽和基に付加していくことにより進行します。
不飽和ポリエステルやビニルエステルは、スチレン等の不飽和単量体と不飽和基含有樹脂との混合物であり、スチレンモノマーと不飽和基含有樹脂との重合反応が進んで三次元構造を形成します。
DAPでは、不飽和基への付加反応とともに、ポリマー骨格中の水素引抜き反応を起こすことによりポリマーどうしを橋かけして、三次元構造を形成します。

3.架橋剤として
高圧電線ケーブル、合成ゴム、シリコーンゴム等の架橋剤として、有機過酸化物が使用されています。有機過酸化物から生成する遊離ラジカルがポリマー骨格中の水素を引き抜きます。この結果生成したポリマーラジカルが再結合することにより橋かけが形成され、機械強度や耐熱性等に優れた架橋ポリマーが得られます。

4.その他の使用法
1)ポリプロピレンの成形性向上剤
ポリプロピレンのような崩壊型ポリマーに有機過酸化物を使用すると、水素引抜き反応により生じたポリマーラジカルの大部分が二次分解(β 開裂)を起こし、より分子量の小さな複数のポリマーに分断されます。この結果、分子量が低下し、流動性が向上するため、成形性が飛躍的に向上します。フィルムや繊維の製造に利用されています。

2)グラフト化剤として
ポリエチレンやポリプロピレンは、機械強度等に優れた樹脂ですが、極性が低いため、接着性や着色性が十分ではありません。これらの非極性ポリマーに極性基(マレイン酸、アクリル酸エステル等)を導入することにより、接着性、着色性が向上します。この反応に有機過酸化物が使用されています。有機過酸化物から生成する遊離ラジカルがポリマーから水素を引抜き、生じたポリマーラジカルに極性不飽和モノマーが付加することにより極性基が導入されます。架橋/開裂反応も同時に進行します。

3)その他
有機過酸化物は高活性な遊離ラジカルを容易に生成しますので、各種のラジカル反応に利用することができます。例えば、ハロゲン化反応の開始剤や重油の助燃剤として使用されています。また、有機過酸やハイドロパーオキサイドは酸化作用を有することから、医農薬の中間体製造段階の酸化剤あるいはエポキシ化触媒として使用されています。